chance meeting

 インターネット、SNS全盛の現代においても未だにどこをどう探しても出てこない、埋もれてしまった情報や記述、証言の類は無尽蔵に存在するということはご存知の通りで、サイバースペースの中に存在するのはそのうちほんの一握りの事象でしかない。それは何も過去のものに限ったことではなくたとえば先週発売された雑誌を手に取らなければ永遠に知ることのない情報や事実もいくらでもあるだろう。活字媒体、いわゆる紙モノの重要性は以前にも増して大きくなっているように思える。

 モダーンミュージックが閉店直前ぐらいまで不定期に発行していたハウスマガジンのようなG-Modernという雑誌があった。創刊したばかりの91年ぐらいに頼まれてレコード・レビューやちょっとした記事を書いていたことがあるのだが、「埋もれた名盤」というコーナーにVirgin Insanityのアルバムを紹介したことがあった。以前のブログにも書いたことがあるが、これは71年に米テキサスで200枚プレスされた自主制作盤で、その頃モダーンではそのコーナーに取り上げられていて聴いてみたいけれど入手が難しい、というものについて、希望者にはカセットにコピーして配布するという気前のいいサービスをしており(生カセット代のみを負担してもらう仕組み)、このアルバムにもそれなりに反響はあったようだ。
  それから15年ぐらいしてアメリカのDe Stijl RecordsのClintという人物から突然メールをもらった。彼はG-Modernの創刊号を入手して僕の書いたVirgin Insanityの記事を読んだという(日本語が読めるとは思えなかったのだが。記名も日本語だったし)。記事にはジャケットの小さい写真が出ていただけなのでなんとかレコード盤のレーベルの写真を送ってもらえないかという。訝しく思いながらもレーベルのスキャンを送ってあげたら10日もしないうちに返信が来て、バンドのメンバーが見つかりDe StijlでLP再発することになったのでライナーを頼みたい、という。レーベルのHPを見てみたらリリース・インフォが既に出ていてライナーがYou Ishiharaになってるじゃないの(笑)慌ててその件は丁重にお断りしてまあ再発できてよかったね出来上がったらサンプル1枚送ってね、と返信したら数日して今度はVigin InsanityのメンバーのBob Longから直接メールが来た。BobによればDe StijlのClintは僕の送ったレーベル写真にプリントされていた当時の住所から本人を探し出しコンタクトしてきたのだという(それは古い自主制作盤のデッドストックをトラックダウンする場合の常套手段ではある)。Bobは丁寧な謝礼、Thank you so much for all you have done to keep a dream aliveというメッセージとともに、未発表だった録音物などをCDRに焼いて送ってくれた。そしてトントン拍子に日本盤CDも発売される運びとなったのはみなさんご存知の通りだ。東京のマニアックなレコード屋が少数出版したミニコミの片隅に載ったレビューを15年後に読んだ米国人が動いてこういうことになったというのも感慨深いものがあったが、改めて紙モノの重要性を再認識させられる出来事ではあった。

  余談ではあるが僕はその後、G-Modernの同じ号にレビューを書いたRising Stormのメンバーとも偶然知り合っている。僕は好きな作品を作った本人と知り合いたいなどと思ったことは一度もないのに、縁とはとはまことに奇なものである。

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